情報リテラシー

第15回 プレゼンテーションの実際


まえおき

前回はプレゼンテーションを「メディア」の側面から考えてみました。覚えていますか?プレゼンテーションの基盤になっている「メディア」は何でしたっけ?

話しことばメディア

でした。そして、話しことばメディア、にはどのような特徴がありましたか?話しことばメディアは、書きことばメディアと違って、すぐに消えてしまうのでした。なので、レポートをそのまま読み上げるようなプレゼンをしても「アタマに入らない」のでした。

そこで究極のプレゼン方法を学びました。それはプレゼンの全体を1つの短文「主語+述語」に集約する方法でした。

そしてパワーポイントをつかって発表形式で行なうのがプレゼンの本質ではないことを学びました。「言葉を研ぎ澄まし準備を怠らず、突然に出現するチャンスをものにする」。それがプレゼンテーションの実際です。

米国・ボストンにマサチューセッツ工科大学(MIT)という世界ランキングで常にトップ圏内にある、大学・研究機関があります。MITのある有名教授と知己がある友人に聞いたのですが、若手研究者などがその教授に声をかけると、いきなり

「ところで、君は何の研究をしているの?」

と聞くそうです。そして、うまく伝えられなかったり、言葉に詰まっていると、

「5,4,3,2,1」

とカウントダウンがはじまり、5秒たつと背中を向けてしまうそうです。冗談みたいな話ですが、その教授の話しになったときに友人が、

「あの先生いつも、あれをやっているけど、ちょっとやりすぎだよな」

と言っていたので、本当にいつもやっているのでしょう ;-)。その先生は「時間を大切にする」先生...?で、移動するときは「いつも小走り」なのでも有名です。その先生からすると自己紹介に5秒以上待っていられないのでしょう。

この先生の場合5秒以内に、面白いかも、と思えるような回答ができると、

「なんで、それをやっているの?」

「その研究で世界を変えられるの?」

と質問が続き、それらすべてに5秒以内に「刺さる言葉」を返せると、研究者として認めてくれるそうです。でも、これは普通のことです。実際のプレゼンテーションでなにかを掴む(高い評価、職・ポジション、資金などなど)ためには、このレベルの「効果的なプレゼンテーション」が必要です。

効果的なプレゼンテーションは、5秒以内の”刺さる単文”で構成されている

入試の英文読解の技術などとして「トピックセンテンス」という用語を聞いたことはありませんか?きちんとした英文では、その段落のすべてをまとめた「トピックセンテンス」が、多くの場合には段落のはじめにあります。

なので他のところを飛ばして「トピックセンテンス」だけを、拾って読んでいくと、その記事なり報告なりの筋道がわかるようになっています。なので一種の、英文速読、は合理的に行なうことができるのです。このトピックセンテンスが「刺さる単文」の正体です。

ただし文章でのトピックセンテンスはプレゼンとは違います。それは、文字メディアは話しことばメディアと違って、すぐに消えない、ので長い文章をトピックセンテンスにできるからです。

たとえば、以下の文章のどの部分が「トピックセンテンス」かわかりますか?

We aim to be Earth’s most customer centric company. Our mission is to continually raise the bar of the customer experience by using the internet and technology to help consumers find, discover and buy anything, and empower businesses and content creators to maximise their success.

冒頭にある、We aim to be Earth’s most customer centric company、がトピックセンテンスです。「私たちの目的は、地球上でもっとも顧客中心の企業であること」。これは短く+「刺さる」文章ですね。そして、次の長い長い1文で

「なんで、それが目的なの?」

「具体的に、どうやるの?」

などについて、すべて答えています。

プレゼンテーションでも(文章でも)、トピックセンテンス(刺さる一文)に絶対必要な条件は「だれもが納得できる内容であること」です。誰もが納得できる内容である、とは、誰でも聞いてすぐに理解して同意できる内容です。

では、次の例をみてみましょう。ある企業の世界戦略(グローバル・ビジョン)についてのWebページです。

人々を安全・安心に運び、心までも動かす。 そして、世界中の生活を、社会を、豊かにしていく。 それが、未来のモビリティ社会をリードする、私たちの想いです。

これは「トピックセンテンスの束」のような文章ですね。まず、第1文がトピックセンテンスになっていて、このミッションが1文に集約されています。そして、第2文が「ミッションの目的」、第3文が「具体的な目標」になっています。

ここまで研ぎ澄まして、短く+刺さることば、になっていると、そのままプレゼンテーションでも使えます。

プレゼンテーションの実際〰書きことばによるプレゼンテーションとは?

以上の2例は「パワーポイントをつかったプレゼンテーション」ではありません。「書きことばによるプレゼンテーション」です。


ワーク1: この2つの例は「記事」や「論文・書籍」とは表現方法が違います。なにが違うのでしょう?具体的な違いを考えてみてください。」


ワーク1を行ってみていかがでしたか? たぶん多くの方々が「いつも読んでいる記事や文章とはなんか違う」とぼんやりと感じるかと思います。「詩みたいだな。。」と感じるかもしれません。

TVや車内広告をながめていると「そうだ、京都、行こう」、「インテル、入ってる」のようなコピーを目にします。ご存じのとおり、これはプロのコピーライターが作り出した作品でもあります。

書きことばによるプレゼンテーションは”コピー”で構成されています

広告のコピーは伝える商品やサービスが1つだけですが、プレゼンテーションの場合は、伝える内容が復数あります。以上の2つの例だと、

伝える内容1:企業のミッション

伝える内容2:ミッション達成の目的

伝える内容3:ミッション達成の方法(英文)、目的の具体化(和文)

となっています。これらは、伝える内容の1つ1つのコピーで構成されています。

書きことばのプレゼンテーションとは、コピーによる詩である

とわたしは考えています。コピーは短い文章なので、話しことばメディアでもつかえます。ということは... 「コピーによりプレゼンテーションを構成すると、書きことばでも、話ことばでも使うことができるノデス」

人々を安全・安心に運び、心までも動かす。 そして、世界中の生活を、社会を、豊かにしていく。 それが、未来のモビリティ社会をリードする、私たちの想いです。

これは、そのまま「話しことばのプレゼンテーション」の原稿としても使えます。この文章に思いをのせて、一生懸命に話せば、多くのひとの心に届くでしょう。

ちなみに、以上の2例はどの会社のものかわかりますか?最初の英文はAmazon社のミッションです、そして和文はトヨタのグローバル・ビジョンです。特にトヨタの経営理念についてのWebページは、ほぼすべて、コピーで構成されています。興味がある方は参考までにご覧ください。

実践的プレゼンテーションの準備法

これで、実践的なプレゼンテーションの準備法がみえてきました。つまり「すべてコピーで構成すればいいのです」。

念のために付言しますが。。。コピーとは、コピーライターのつくる単文のことです。他のひとのものを盗作コピーせよ、という意味ではまったくないので、誤解のないように ;-) 。

  1. プレゼンテーションの内容を分ける:背景、関連研究、方法、結果、考察のように
  2. 各々について「コピーを考える」
  3. 各々の「コピー」の具体例や実現方法を(やはり)コピーで表現する
  4. 必要に応じて、メディアをつくる(パワーポイント、Webページ、パンフレットなどなど)

今後、ゼミやイベントなどでプレゼンテーションをする機会が必ずあります。その時には、以上の準備法をぜひ試してみてください。こうやって文章でつらつらと書いてあると、、ふむふむ。。と読んでしまうだけですが、いざやってみると。。

となって、だいたい

「大量な文字」で埋め尽くされたスライドを見せられて、ロジックが迷走して話しの筋がみえず大量の?で迷子になり、(全部の内容が書いてある)原稿をひたすら読み上げるの聞かされる

という、発表者以外は、次第に気が遠くなって意識をうしなう、催眠術のようなプレゼンとなってしまいます。こうなってしまうのは、コピー化、ができていないからです。

前掲した、トヨタのグローバル・ビジョンだって、文章にすればあの何百倍の分量になります。Webページにそれを貼り付けても、絶対に伝わらないので「イメージ化」をしています。イメージ化とは、具体的な数字やロジックを捨象して、イメージとして伝える方法です。そのためには、

  1. データ:大きく分類する、傾向(増加、減少など)にする
  2. 関連研究:分類(実験研究が少ない、文献研究が主、など)、傾向(○○についての研究が主流、△についてはまれ、など)にする。
  3. 手順・方法:一番重要なところのみの、ざっくりとした簡単な図にする
  4. 結果:一番重要ものだけを示す。残りは分類、傾向のみを示す
  5. 結論・考察:トヨタのページなどを参考に、2,3のコピーのみで構成する

などとすると、効果的なプレゼンテーションになります。さきほどの、催眠術のようなプレゼンテーションの場合。。

と修正すると、かなり効果的なプレゼンテーションに近くなります。

プレゼンテーションの仕方

以上までで「プレゼンテーションの実際」についてはだいたいお伝えしました。少しだけ、講演者としてのTipsを書いておきます。この部分はネットや書籍などにたくさん情報があるので...私の経験から初心者の方々へお伝えするとしたら。。

  1. すべての、動作をゆっくりにする
  2. 顔をあげて、会場の一番奥をみる

いろいろ考えてみると「この2つかな。。」と思います。講演者のあなたは、聴衆からすると「視覚メディア」です。講演者はテレビやYoutubeに出ている人々と全く同じにみられます。 みなさんがテレビやYoutubeをみるとき、出演者の「立ち居振る舞い(視覚情報)」にかなり注目していますよね。「楽しそう」とポジティブにみえたり、「やる気あんのかな?」とネガティブにみえたりすると、その印象にかなりひきずられます。

下を向いて、陰気な顔をして、早口で小さな声で、ボソボソ話す

この”芸風”が板についているプロならともかく、普通はこのような「視覚イメージ」から「わぁっ!このひとの話しゼッタイ聞きたい!」。。。とはならないですよね。

逆に、妙に場慣れしていて、しゃべりも流暢だし、ギャグまでを入れて、自信満々

このスタイルもよく見かけますが...どうでしょう。。こうゆうの..

なかなか、講演者としてのスタイルって奥が深い。。と常々おもっています。これから、学術的なプレゼンテーションをしていく初心者の方が、講演での「効果的な視覚イメージ」をつくるためのTipsとしたら、以上の2つになるかとおもいます。

  1. すべての、動作をゆっくりにする: どんな人でもプレゼンではアガリます。そのためには十分な練習が一番いいのですが、「動作をゆっくりにする」ことに心がけると、アガリをある程度抑えることができます。

ここでの「動作」とは、指名されて白板やスライドの前に出るときの「歩き方」から、プレゼンテーションの準備動作、指し棒を使う動作、などすべてを「ゆっくりに」と心がけるのです。

最初は難しいかもしれませんが、「失敗したな。。」とおもったら、次回は講演中に1回は「ゆっくり」と自分に言い聞かせることができること、を目標にします。講演中は「アタマ真っ白」になってしまいますから、そこで、自分で自分に「ゆっくり」と言い聞かせることができると、落ち着きを取り戻すことができるのです。

しゃべりだしで声が震えたり、指し棒が震えてしまう。。自分ではそう思っていないのに「あぁアガっている!!」とパニックになりがちです。いったんパニックになると、最後まで一気呵成にウァーっとしゃべって降壇。。なんてことになりがちです。

「あ!アガってる。どうしよう!」とおもったら、わざと動作をゆっくりにします。声が震えていても、そのままゆっくりと話すようにします。そうすると自分のプレゼンに集中できるようになります。

  1. 顔をあげて、会場の一番奥をみる: プレゼンに呑まれると、怖くて顔を上げることができなくなります。そうすると、胸をひらいて十分に呼吸をすることができません。そして声帯も固くなって大きな声がでなくなります。「もっと大きな声にしなきゃ。。」と焦るほど、どんどん硬くなってしまいます。

なので「プレゼンの開始時に、顔をあげて会場の一番奥をみる」、これをルーチンとしてしまえばいいのです。こうすると、胸がひらくので十分に腹式呼吸ができます。そして、上を向くと声帯が開くので声が出しやすくなります。

以上の2つができるだけで、ずいぶん視覚イメージはよくなります。

もし、以上の2つができたら、

に挑戦してください。これで、相当に視覚イメージは向上します。さらに、

ができたら、かなり上級者です。「手」の使い方は視覚イメージに大きく影響するので、とても重要です。私もいろいろ試しているのですが、なかなか上達しません。自分がよいと思える講演者がいたら、手の動きを学ぶとよいとおもいます、

他にも、服装や声の出し方、視線、指し棒、歩きなどなど。。プレゼンテーションは奥が深いです。しかし、どんなにプレゼンテーションの技術が高くても、優れた内容と思いの強さ、には勝てません。 

プレゼンテーションの技術は高いが、内容が乏しく・思いが伝わらない... 内容や伝えたいという熱い思いがあってこそのプレゼンテーションです。どうか、よいプレゼンターになってください。

おわりに

さて、これで「情報リテラシー(文系)」のすべての内容がおわりました。いかがでしたか?特に新1年生の方々、大変なご苦労があったとおもいます。ですが、例年に比べても遜色なく、いや、いままで以上に向学心と志の高さをかんじました。敬意を表します。

どうか、みなさまの大学生活が実り多いものとなるように祈念いたしております。

直接に顔をあわせることはありませんでしたが、これもなにかの縁ですので、情報リテラシーに関係することはもちろん、そのほか大学生活、進路、などどんなことでも、微力ながらご助力できるかとおもいますので、ご相談ください。全教員はみなさんによい大学生活を送ってほしいと、心の底から思っています。友人がいない・少ない、先輩がいない、などで大変かとお察しします。少なくとも私はみなさんをできる限りサポートしたいと思っています。決して1人ではないので、行き詰まったなぁ。。とおもったらメールでもください。ysuzuki@nagoya-u.jp

よい、大学生活、夏休みとなりますように


課題:先週に引き続き、以下のサイトから、パワーポイントの使い方、を自習してください。そして、自習で作成したファイルを添付して提出してください。内容は問いません。プレゼンテーションの形式になっていなくてもかまいません。ご自身のためにパワーポイントの技術を習得するのが目的です。

もし、今回の講義でとりあげたプレゼンテーションの方法などについて、「やってみたけど、みてほしい・コメントがほしい」などありましたら、ysuzuki@nagoya-u.jp までメールをください。これは対面講義でコミュニケーションがとれなかった代わりの「パーソナル・コーチング」のつもりです。

https://support.office.com/ja-jp/article/powerpoint-for-windows-%E3%81%AE%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%82%B0-40e8c930-cb0b-40d8-82c4-bd53d3398787?wt.mc_id=otc_home

おつかれさまでした.