複雑系計算特論1および2

鈴木泰博

本コースの内容:このコースは「自然計算の基盤と発展」に関するものである.注意してほしいのは,基盤とは一面においては数理や工学応用とは遠く離れた実用性に乏しいものであり,それがゆえに,極めて重要である.その一方で,単なる実用に供しない基盤には存在意味がない.基盤と応用は双対をなしてはじめて意味をもつ.

本コースで扱う内容は以下の通りである.本コースは複雑系計算特論1および2であり,通常講義の場合には分けて行なっているが,内容は連続したものであるので,ここではあえて1と2を分けない.

コース予定

1.ガイダンスおよび概論
2.計算の科学史と”計算”という方法論の科学的位置付け
3南方熊楠の科学論
4南方熊楠の科学論〜創発
5計算の再定義
6圏論(定義のみ)
7[南方熊楠の科学論の圏論的解釈]
8計算代数とマルチ集合論
9南方熊楠の科学論の圏論的解釈に基づく計算代数系, ARMS
10ARMSの基礎数理(代数的特徴,ARMSから微分方程式の導出など)
11ARMSによる自然の記述(一般計算科学の提唱),情報の散逸
12情報の散逸の自然系への応用
13自然を計算化する〜シェパーディングとハーネス
14触覚の言語「触譜」
15触譜によるひと・自然の計算系化

コースのすすめかた

受講者は,オンライン資料(この資料)と指定された参考論文・文献により学習をすすめる.

評価

出席に相当するチェックテストをNUCTで出題する.この小テストは提出期限があり,それを過ぎると提出できずに「欠席」となる.この小テストはすべて評価し基準に達していない場合には,相応の大変低い評価となるため,よく注意すること.また,チェックテストが3割以上の欠席(未提出)の場合は総合評価は「欠」となる.

これとは別に,前半と後半にレポート課題を課す.最終評価はチェックテストとレポート課題から総合的に評価する.

このコースを受講するにあたって

このコースはいわゆる文系と理系の双方を比較的深く扱う.これは受講生のバックグラウンドにもよるが,本コースを受講しつづけるためには,付随して必要となる勉強量はかなり多くなるであろう.上掲したコース内容に,あまり興味がない場合は受講を勧めない,

その一方で,労苦を承知の上で,本コースの内容を理解したいと望む受講生には,奮起を期待する.例年,対面授業の折には,熱意ある受講生の方々とのディスカッションになる場合も多く,講義終了後に1時間以上もディスカッションが続くことも稀ではなかった.オンライン開講ではあるが,積極的なコースへの参加を期待する.

概論

  1. 本論は正体不明な「自然計算」なるものを奇貨として,あたらしい計算の地平を拓くものである.
  2. 自然計算を自然と計算に分離し,その各々について再考する.自然は,わたし自らが自然であることから,あえて問わない,否,それは無限退行となり,問うことができない(今回のチェックテストとして出題されています).
  3. 自然を問うことができないのであれば,計算を再考し,計算を以って自然を再考する.提題1.: 計算とはなにか?
  4. 提題1. について考察を深めるためには,計算の科学史を紐解く必要がある.それは計算の概念が曖昧模糊としているためだ.
  5. 調査:計算の科学史・科学論(第2回)
  6. 調査1.のもと,計算を科学史的かつ科学論的に位置付け,計算の再定義を行う(第3回)
  7. 再定義化された計算とは所詮は形骸であり,体を成していない.計算の体を成すためには,形骸化された計算にアニマ(魂)を与える必要がある.
  8. 形骸化された計算にアニマを与えるため,南方熊楠の科学論を援用する(第4回)
  9. 南方熊楠の科学論を理解するため,計算論的な解釈とシミュレーションを与える(第5回)
  10. 圏論(カテゴリー理論)の定義を用いると,熊楠の科学論は明瞭化する(第6回)
  11. 圏論により熊楠の科学論を記述する.これにより,熊楠の科学論は素朴集合論として記述できることが示される.(第7回)
  12. 素朴集合論上に計算モデルを構築する.そのため計算代数とマルチ集合論を用いる(第8回)
  13. 熊楠の科学論を基にした計算モデルARMSをマルチ集合上の計算代数系として構築する
  14. ARMSの数理的な特徴づけなどを行う(第9回,10回)
  15. 以上より「計算とは何か?」への再考から,計算の再定義を行い,南方熊楠の科学論をアニマとして取り入れた計算系が構築できた.これより,この計算系により「自然」について考察を行う.
  16. 計算はこれまで明示的に数理的方法として用いられていない.そこで,計算・アルゴリズムにより自然を理解する仕方として「一般計算科学」を提唱する(第11回).
  17. 一般計算科学をマルチスケールでの自己組織化現象に用いる(第11回)
  18. 自己組織化現象の計算的解釈から「情報の散逸」が見出される.これは,計算により自然を洞察した結果得たものであり,冒頭に立てた問い(今回のチェックテスト)に対する,ひとつの答えとなっている.
  19. 情報の散逸をビックデータ解析などにもちいた例(第12回)
  20. これまでに得た視座により,自然計算系を構築,していく(第13回)
  21. 自然界の一般相互作用は触覚である.よって自然を計算化するために,触覚の人工言語(プログラミング言語)をつくる,触譜(第14回)
  22. 触譜によるヒトや自然の計算化についての具体例と将来展望を示す(第15回)

以上が,本コースの概論となる.このコースを受講するか否かの参考にしてほしい.

本日のチェックテスト(再掲)

本日のチェックテストである.NUCTに課題として出題されている.レポートは添付ファイルとして提出すること.提出期限は4月29日の17時とする.また,以下のフォーマットに従っていないレポートは提出と認めない.また,評価基準は以下の通りである.

レポートのフォーマット(厳守:守っていなかったら提出にならない)

問題:なぜ人間は自然を問うことができないのか?なぜ人間が自然を問うことが無限退行となるのか,その理由を合理的に述べよ,また,人間は自然を問うことができる,との反証をおこなってもよい.ここで合理的とは,飛躍なきロジックをもって論証せよとの意味である.また,デカルト(コギト)やヘーゲル(アウフヘーベン)の概念を参考にしてもよい.

第2回のための準備:次回のために以下を宿題とする.自分なりにまとめておくこと.

  1. アラン・チューリングはなぜチューリングマシンを提案するに至ったか,時代背景を含めて調査しておくこと.特に,ヒルベルト,ゲーデル,チャーチとの関係を中心に調査すること.
  2. ライプニッツがゲーデルとチューリングに与えた影響は甚大である.その理由について調査する.
  3. ブラウワーはなぜ,直観主義数学を提起したかを調査する.特にヒルベルトとの関係は重要であるのでチェックしておく(直観的数学が初見のばあいは,直観主義数学についても調査しておくこと.特に,ハイティンク,カリー・ハワード対応など)